イベント・レポート:第1回支援技術利用状況調査結果報告会
日本視覚障害者ICTネットワーク (JBICT.Net) では、2021年4月から5月にかけて、「第1回支援技術利用状況調査」を実施しました。そして、この調査結果を紹介するオンライン・イベントを2021年9月14日に開催しました。
本レポートでは、このイベントの様子を書き起こしテキストに基づいて紹介します。 なお、当日は質疑応答の時間をイベント終盤で設けましたが、本稿では調査に直接関連する質問を選んで、関連する内容とまとめる形に編集しています。
参考情報として本文中にはグラフを挿入していますが、これらはいずれも調査報告書に掲載しているものです。調査報告書にはグラフ作成に用いた数値も掲載していますので、併せてご覧ください。
オープニング
中根:今日本の視覚障害者はどのようにPCやスマホを使っているのか、第1回支援技術利用状況調査結果報告会へようこそ。ご参加ありがとうございます。ということで早速進めていきたいと思います。
今回はUDトーク修正枠ということで5名の方にご参加いただいています。ご協力ありがとうございます。長丁場というか、1時間半で終わるといいなと思ってやっているんですけれども、ちょっと長くなりますけれどもよろしくお願いいたします。
そしてお礼ということでカンパ枠でご参加くださっているみなさん、ありがとうございます。みなさんからいただきました参加費、カンパを活用させていただいて、このイベントの文字化、記事化というのをやろうということで。こういった調査に関しては、調査に関する分析みたいなものがなかなか文字、記事になっていないなという印象があって、そういうことを解決できるといいなと思って、やはり文字で何かしら残して公開したいなということを考えておりますので、みなさんのご協力に感謝いたします。
我々は一応「日本視覚障害者ICTネットワーク」ということで立派そうな名前をつけているのですが、任意団体で全然資金力もないのでこういったかたちでご協力いただけるのは大変ありがたいです。ありがとうございます。
今日は、Twitterのハッシュタグは#jbict2109です。どんどんつぶやいてください。特に秘密にするような内容はございません。
参考:関連ツイートまとめ
中根:そしてSlidoで一応質問も受け付けておりますので、特にYouTubeライブをご覧の方で質問をされたい方はこちらに書いていただけると拾える可能性があります。
パネリスト自己紹介
中根:ということで、今日のパネリストを紹介します。
まず、私は中根雅文といいます。簡単に自己紹介をします。
ほぼ先天的な全盲で、学生の頃からもう25~26年アクセシビリティーというキーワードでいろんな活動、取り組みをしてきています。
このあとちょっと視覚障害があるパネリストが何人か続きますけれども、それぞれに「普段どんな環境でPCを使っているのか」「スクリーン・リーダーは何を使っているのか」というようなことも自己紹介がてらお話しいただこうと思うんですけれども、僕自身は普段はWindowsがメインで、NVDAを使っています。時々ナレーターも使うという感じですね。
ブラウザーはChrome、調査の流れで言うとメーラーはThunderbirdですね。MacとChromebookもうちにはありますが、あまり使ってなくて、試してみたくらいの感じですね。
スマホはiPhoneとAndroidでiPhone7割、Android3割の感じで使っています。これはどのような使い分けをしているのか、みたいな話はこのあとにパネリストのみなさんといろいろと話していきたいと思います。
ここから先は、まずJBICTのメンバーがあいうえお順に多分なっていたはず。ということで小川さん、お願いします。
小川:みなさん、こんばんは。小川敏一と申します。僕は先天性の弱視でしたが5年ほど前にけがで失明しまして、今は全盲です。
パソコンの環境としては、私は自宅と職場でそれぞれWindows 10のパソコンを使っていまして、メインのスクリーン・リーダーはPC-Talker NeoとPC-Talker Neo Plusですね。
メイン・ブラウザーとしてはNetReader、メイン・メーラーとしてはMyMailⅤ、こちらを使っています。それとPC-Talkerでは手に負えないときだったりChromeを主に使ったほうが便利だなというときなんかにはNVDAを使っていて、NVDAでもPC-Talkerも何もしゃべらなくなってどうしようもなくなったときにはナレーターを呼び出してきてなんとか対処しているという次第です。
スマートフォンとしてはiOSとしてiPhoneを、Android端末としてPixelのスマートフォンを使っています。普段はスマートフォンを使うときはiPhoneのほうがかなり使う頻度は高いです。
私の環境としては以上です。よろしくお願いします。
中根:次は辻さんかな?
辻:みなさんこんばんは、辻勝利と申します。先天性の全盲で、私も30年近くずっとコンピューターにまみれて生活をしております。
普段使っているのはWindowsのパソコンが中心なんですけれども、NVDAを使うことが多くて、あとは検証の仕事をするときなどにPC-Talkerを使ったりですとか、ナレーターを使ったりすることもあります。
スマートフォンはiPhoneを使うことが多くて9割ぐらいiPhoneを使っていまして、ときどきAndroidのスマートフォンも使ったりしております。
今日はよろしくお願いします。
中根:ここまでがJBICTのメンバーでした。ここから先が五十音順なので伊原さんお願いします。
伊原:伊原と申します。よろしくお願いします。
私は視覚障害当事者ではなくて、晴眼者でそろそろ老眼の恐れをちょっと感じ始めているような感じではあります。アクセシビリティーのいろいろをやっていて、中根さんと同僚でfreee株式会社という会計ソフトとか人事労務ソフトを作っている会社でデザイナーとかリサーチャーとかをしつつ、アクセシビリティーの推進をしたりしています。
あとは最近noteさんとかUbieさんとか、あとは東京都コロナ対策サイトのアクセシビリティーとか、その辺のアクセシビリティー改善のお手伝いとかもしています。
というような感じで、今日は割と作り手側としてピュアな質問をいろいろしていくような係というかたちで参加させてもらっております。よろしくお願いいたします。
中根:当事者だけで話していると、当事者しか分からないことをさもみんなが分かっているように話してしまう危険性とかもあるだろうということで、無理を言って参加していただいています。よろしくお願いします。
では最後山賀さん。
山賀:山賀信之です。
僕は普段視覚障害者向けのICTサポートをするスラッシュというところで働いています。僕自身は先天性の全盲です。
仕事では基本的に調査に出てきたものをほぼ全部使う感じです。
プライベートは基本的にはWindows10のパソコンをNVDAを使って操作しています。メーラーはThunderbirdを使って、ブラウザーはFirefoxをメインに使っています。
スマートフォンはアプリを作ったりClubhouseをやるときだけiPhoneを使って、それ以外は基本Androidのスマートフォンを使っています。Androidを使うときは一緒に点字ディスプレイを併用することが結構多いというような感じが私の環境です。
よろしくお願いします。
国内外の類似の調査
中根:では調査の概要等のお話をしていきたいと思うんですが、あまり時間をかけないように頑張ります。
まず我々の団体でやった調査の話に入る前に、国内外の類似する調査について簡単にご紹介します。
まず「視覚障害者ICT機器利用状況調査」というのが、2017年に新潟大学の渡辺哲也先生によって実施されたのが、国内で我々が把握している最新のこの手の調査です。
海外ですと、アメリカの、これは非営利組織になるんだと思うんですが、WebAIMという組織が、多分10年ぐらい前から、定期的ではなくて、2年に1回の時とか1年に1回の時とかがあるのでよく分からないのですが、Screen Reader User Surveyという調査をやっています。比較的最近、今年に入ってやった「Screen Reader User Survey #9」という、2021年5月~6月に実施されたものがあります。
このWebAIMのScreen Reader User Surveyのほうは基本的に世界を対象にしているというか、世界中から回答者がいるというところが大きな違いかなというところですね。
それから新潟大学のものは、日本の視覚障害者を対象としているということで我々の調査と似ているんですけれども、調査の回答の収集方法が結構違っていて、新潟大学のものは基本的にメールが中心なんですね。あとでちょっと触れますけど、我々は基本的にほぼWebで回答を収集しているので、そこで若干差が出て結果に影響が出ている可能性があるかなというふうに思っています。
ここから先の情報は我々のサイトですでに公開しています。あとはイベント情報ページとかからもリンクがあります調査結果の報告書、これを紹介しながらあれこれしゃべっていくというような流れで考えています。
ただ参加時にご記入いただいたアンケートを見ると、視覚障害当事者の割合が僕らが思っていたよりもずっと少ないということで、それこそさっきの話じゃないですけど、我々が当たり前だと思っているものが全然当たり前ではないみたいなことが普通に起こりそうなので、調査報告書の中に出てくる支援技術に関してすごく簡単にはなりますけれども、紹介をしながらお話を進めていきたいと思っています。
調査実施概要
まず調査の概要ということで、実施期間は2021年、今年の4月21日から5月の末まで、Webとメールで受け付けました。
有効回答数は336件で、メールは26でした。ということで圧倒的にWebが多かったということで、もちろん、新潟大学の渡辺先生の調査にメールで回答した人でうちのやつにはWebで回答している、という方も大勢いらっしゃるとは思うんですけど、やはりちょっとそこで差が出る可能性はあるかなという気はしています。というのは、やはりメールの回答って結構必須回答が抜けていたりとか、こちらが意図したのとは違うかたちで選択肢を選ばれていたりとかで、結構無効になっているものとかもあったりするんですね。そのようなこともありますので、やはりそこでちょっと差が出てくるのかもしれないという気はします。
ただ、このあとお話ししていきますけれども、結構結果として似たような傾向だなという印象はあります。
参加者アンケートからの質問
中根:「調査の内容について引用させていただいていいですか?」。
もちろん大丈夫です。出典を明確にしていただいて、リンクを貼っていただいたりすれば大丈夫です。
回答者の年齢分布
中根:「回答してくださった方の年齢分布」ですけれども、50代と40代が特に多いんですね。で、新潟大学の調査も同じ傾向です。
WebAIMに関していうと、これは年齢の区切り方が20歳ごとという大きめの区切りなのでうちと簡単には比較できない部分もあるんですけど、21歳~40歳というのが38.3%、41歳~60歳というのが31.4%ということで、20代、30代という層が我々の調査よりも海外のほうが多いなというところがちょっとあるんですが、パネリストの皆さんは、この年齢の分布は実感としてどうですか?実際の視覚障害があるITユーザーの年齢分布と一致している印象ですか?
一番いろんな人を見ていそうな山賀さん。
山賀:ほぼ一致しているとは思います。ただ個人的には、70代の方がこれだけ回答されているのがちょっとビックリかなという印象は受けています。
僕が普段仕事でお付き合いしている方は多分60代~70代の方が多いんですけど、この方たちってWebにせよメールにせよ、アンケート回答みたいなのはあまり得意じゃない方が多いんですけど、これだけ回答されている方がいるので、リテラシーが高い方が結構この世代でもいらっしゃるんだな、と思いました。
中根:僕は若い人がもうちょっといるかなと思ったんですけど、その辺はどうですか?
山賀:若い人、そうですね、もっといてもいい印象は確かにありますね。
中根:10代の人とかは、本当は多分学校で習って使っている人とか結構いるような気がするんだけど、その人たちにはリーチできていないということなんだろうなという気はしているんですね。
辻:やはり我々世代というか、40代とか50代の方が多いのかなという印象はあって。僕ももうちょっと若い方にもリーチできるように啓発活動とかもしていかないといけないと思うし、何かそういう若い人たちからの意見とかもちゃんと聞けるような場ができるといいなと思っています。
中根:この調子で全員に聞いていくと時間が絶対なくなるということに気づいたので、全員に聞かないので、パネリストの皆さんはしゃべりたい時にしゃべってください。お願いします。次に行きます。
障害の状況
中根:「障害種別」は基本的に視覚障害単一という方がほとんどですね。盲ろうの方というのが少しいらっしゃるんですけど、これ今回調査報告では書かなかったんですけども、身体障害者手帳の取得状況、交付を受けているかどうかというところと、実際にご自身がこういう障害がありますよ、というふうに答えてくださった内容が一致していないケースというのが若干あって。特に盲ろうというか視覚聴覚の重複障害の方はそういう方が多い、と言っても全体数、母数が少ないのであれですけれど、それでも確か半分くらいはそういうことだったのではないかなと思います。
それこそよく障害の社会モデル、医療モデルとかいう話になりますけれど、医療モデル的にはそういう障害者ではないけれど、社会モデル的にというか、本人としてはそういうふうな不便を感じているという方が一定数いらっしゃるんだな、ということが分かりましたが、ただ基本的にはやはり盲ろうの方とかにはまだ全然リーチできていないな、という印象を受けました。
パソコンとスマートフォンの利用状況
次が「PCとスマートフォンの利用状況」ということで、これがすごくざっくり言うと87.20%はスマートフォンを使用している。PCとスマートフォンを同程度使うよって人は54.46%だと。これが1番割合としては多かったですね。
海外との比較という意味でいうと、WebAIMはモバイルのスクリーン・リーダーを使っていると回答した人が90.0%ということで、つまりスマホを使っているというふうにほぼいえる人たちが90%いるということで、日本よりも若干高いのかな、というような感じがあります。
辻:人によってはスマートフォンだけという方も結構いらっしゃるでしょうし、確かにこの数字はその通りなのかな、という印象でした。
中根:スマートフォンだけ、という人が思ったよりも多かったという気もちょっとしているんですよね。
辻:僕も、数はたくさん存じ上げないんですけれど、何人かの方はスマホしか使っていないよ、という方が知り合いの方にもいて、「あ、そうなんだ。そういう時代になったんだな」って最近思うんですけど。
中根:次のスライドが、多分今と同じ分類の年齢別のグラフが出ていると思うんですけれど、PCのみ使う人の割合が年齢に比例して高くなっていくというのはなんとなくそうかな、という気はするんですけれども、とはいえやはり年齢層が高いところでもスマートフォンを使っている人は多いなという感じはありませんか?
山賀:結構多いなという印象は受けますね。
中根:ただ、僕の年代40代後半とか50代前半とかの人たちぐらいあたりから「スマートフォンなんて」と言い出す人が障害者も晴眼者もいるなという印象なので、年齢いくともうちょっと少ないのかなと思ったんですけど、そうでもないなという。
辻:出先とかで情報をチェックしたりする時とかはやはり便利ですもんね。
中根:というか、ガラケーで使えるものがどんどん減ってきてしまったというところも大きいのかなって気がしますけれどね。だからガラケーでできるんだったらガラケーでやりたい、という人は結構いるんだろうなという感じもしています。
小川: 音声読み上げ対応のものとなると、もうガラケーの昔のらくらくホンのような感じのものもなくなってきて、ガラホを含めてですけどスマートフォンしか選択肢が無い、というのも大きいのかなと思います。
中根:そうですね。だからこれは多分、晴眼者の世界も結構似ているんでしょうね。
伊原:ただ印象として、20代とかはスマートフォンメインな人が晴眼者だと多いのかな、みたいな印象は僕はないかなと思いますが。
とはいえ、よく昔から言われる「見えないとスマホ使えないんじゃない?」みたいな話というのは「何言っているの?」ぐらいの世界なんだよみたいなことは。なんていうか、それは知らないとそういう考えになるのは分かるんですけれども、むしろほとんどみんな「見えていようがそうでなかろうが同じように使っているんだよね」ということはあきらかに言えるな、と思いました。
視聴者からの質問
質問者:1点だけどうしても気がかりで聞きたいんですけど、先程スマホの利用が非常に高いんだよということで、一般の認識よりも視覚障害者も十分使っているよとおっしゃったと思うんですけど、要するに今回の回答はWebで回答できる人の中でということになるので、今回のアンケートにWebで回答できた人で言ったら8~9割ということであって、視覚障害者全体の8~9割ではないですよね?
中根:そこは推測するしかないですけど、多分もっと少ないんでしょうね。
質問者:印象でいくとやはり2~3割かなという。視覚障害をどう定義づけるか、というところもありますけれど、やはり実際はかなり低いのではないかなという印象を持っていまして、そこの受け止め方が全然違うな、と思ったので確認です。
中根:そこはご指摘の通りで、Webで回答できる、あるいはメールで回答できる、という人というのは、一定程度のスキルなりリテラシーなりがある方だと思うので。そうではなくても最低限のレベルでパソコンを使っているとかガラケーを使っているとか、そういう人は結構いるんだろうなとは思うんですね。なんだけど、そういう人たちに僕たちがリーチする手段が、頑張ればあるんだろうけど、我々ができる範囲でやろうと思うとなかなか難しいところがあるので、そういったところの実態は全然反映できていないのはその通りだと思いますね。
質問者:そういう怖さがありまして、「視覚障害の人って結構スマホ使っているよ」と思って開発者の人たちがそっちに流れちゃっていて、使えていない多くの方たちが置いてけぼりになっていたりする状況もあるので、もし発信される場合は注記をいただくのがいいかなと思いました。
中根:今回のWebの回答とかでも、かなり事前に確認をしてスクリーン・リーダーを使いやすくなるように、というので作っていたつもりなんですけど、「回答するのが難しい」という方が何人か問い合わせくださったりとかもあったりしているので、「答えたいけれど答えられない」という人もいるんだろうけれど、それがどれくらいなのかというのは全然想像がつかない所があって、そこは課題だなという認識はあります。
質問者:ありがとうございます。
中根:はい、ありがとうございます。
PCで利用している支援技術
中根:「PCで利用している支援技術(複数選択)」というやつが出てきて、ここに出てくるスクリーン・リーダーについて簡単に紹介しておきます。
PC-Talkerというのが、数値にも出ていますけど1番シェアが高いもので、これは高知システム開発という所が作っている売り物のWindows用のスクリーン・リーダーで、最近はサブスクになっていくらでしたっけ?
山賀:実費負担でいった場合は3年ライセンスなので、NetReaderありのほうのパッケージが年間9,000円で、なしのほうが年間6,000円ですね。で、×3というのがとりあえず標準の価格ですね。今言ったのは税別価格です。
中根:結構リーズナブルなんですよね。
山賀:高くなったって怒る人たちがいるんですけど、全然今までより安くなっていると僕も見ています。
中根:ずっと更新し続けられるわけですからね。お金払ってれば。これが日本の中ではかなり古くからあるWindows用のスクリーン・リーダーです。
JAWS for Windowsというのがあって、これはもともとはアメリカで開発されているWindows用のスクリーン・リーダーで、1番多機能、高機能といわれているものですが、お値段がなかなかお高い。今ちょっと正確なところは分からないですけれど、新規購入とかで15万とか16万とかそれくらいの金額ですね。
1年ごとにメジャーバージョンアップがあって、もしバージョンアップを追従しようと思うと何万円かかかると。ですが1番高機能、多機能と言われているものです。
NVDAはさっきから僕らの自己紹介の中でも出てきていますけれど、NVDAというのは海外で中心に開発が進められているんですけれども、日本にNVDAの日本語チームというグループがあって、このグループで日本語に特化したカスタマイズというかローカライズというか、そういう作業をしてNVDA日本語版というものが提供されている、オープンソースで無料で使えるWindows用のスクリーン・リーダーです。
リリースされてからはもう15年ぐらいたちます?
辻:2007年に日本に持ってきたから……そうですね。
中根:最初のうちは全然スクリーン・リーダーとして使い物にならないという評価だったんですけど、最近僕はもうほぼNVDAしか使っていないぐらい結構機能的には充実してきているな、という。性能的、機能的には充実してきているし、安い、というか無料だし。一応開発元に寄付とかはしているんですよ。JAWS買うような金額はちょっと寄付できないので、すみませんって言いながらやっています。
あともう1個、ナレーターというのが、これはマイクロソフトが開発して、Windowsに標準搭載されているスクリーン・リーダーです。Windows 8以降だと、Ctrl+Windowsキー+Enterとか押すと急にしゃべりだします。今のを聞いてうっかりやってしまってしゃべり始めて困った人は、もう1回同じキーを押すと止まります。これは当然Windowsの標準搭載ということで無料です。
けれど、これもさっきのNVDAではないですけど、実はナレーターが出てきたのがWindows 2000の時代なんですね。そのときはもう、本当に使い物にならない、「とりあえずなんか読むね」ぐらいの感じだったんですけど、今はWindows 10以降ぐらいになってどんどん改良されていって、結構機能的には充実してきている、そういう印象のものですね。
というのがWindows上でよく使われるスクリーン・リーダーです。
で、ここにありますけどPC-Talkerは、我々は予想通りだなと思ったんですけど、多い。それから思ったよりナレーターが多い。これ僕がメモでスピーカーノートに書いているやつなんですけど、「思ったよりもナレーターが多い。NVDA頑張っている」というそういうコメントが書いてありますけど、この辺はみなさんそれぞれ、なんでこういう感じになっているのかとか、どんな感想、印象をお持ちかというのをちょっと簡単に手短に1人ずつお話しいただけますか?
辻:やはりNVDAも結構頻繁にバージョンアップを繰り返しているスクリーン・リーダーだし、あとは、ナレーターの機能がどんどん充実してきているというのが、これだけ利用者が増えた要因なのかなという気はします。
中根:とはいえ、PC-Talkerが圧倒的という感じですけど、これについては、ユーザーの小川さん、どんな感想ですか?
小川:やはりPC-Talkerは、JAWSはちょっと別格になってしまうんですけれど、純国産で会社がちゃんと販売をしているということで、困ったときにきっちりサポートが受けられる、というのが大きいというのが1つと、視覚特別支援学校だったりパソコン教室だったりで使っている教材というか、そのスクリーン・リーダーとして選ばれている率が多分多い。それと歴史があるスクリーン・リーダーということと、このラインナップではPC-Talkerだけが独自のMyシリーズというPC-Talkerに特化した初心者が使いやすいアプリケーション、私も使っているMyMailだったり、読書用のMyBookとか辞書を引くMyDic、ルート検索のMyRouteとかニュースを見るMyNews、そういった初心者の人がパソコンに入っていくのに入っていきやすいアプリケーションが充実しているというのも1つ大きいのではないかな、と思います。
中根:教える立場で言うと、PC-Talkerを教えやすいとか、NVDAは教えづらいとかそういうのはありますか?
山賀:スクリーン・リーダーの機能としてはどっちも十分な性能があるんですが、PC-Talkerの場合はやはりそれに適応したシンクロしているツールがたくさんあるので、単体で見るよりはパソコンでいろいろなことをしていきたいという点において進めやすい、というのはあります。あとはずっと言われていることとして、PC-Talkerはデフォルトで入っている音声の音質がすごく良いので、そこは結構なアドバンテージになりうるかな、と思っています。
中根:そこは否定できないですね。そういう意味で言うとJAWSもそうなんだけど、やはりちょっとお値段がね、というところですよね。
山賀:あとはWindows 8以降になってからスタートメニューがあまりスクリーン・リーダー単体で使いやすい印象を僕自身も持っていないんですけど、そこの部分がPC-Talkerは付属のおまけで、おまけで、と言うと怒られる気がしますけれど、付録で付いてくるスタートメニューの代わりになるものが。
小川:マイスタートメニューでしたっけ?
中根:ランチャーみたいなやつね。
山賀:はい、ランチャーですね。専用ランチャーがその辺を配慮して作られているので、やはりそこは進めやすいところでありますね。
中根:僕の感覚から言うと、結局PC-Talkerはそういうふうに使いやすいように作られて考えられているんだけれど、PC-Talkerに慣れてしまうと他のスクリーン・リーダーに乗り換えるのがかなり大変だろうな、という。ところが他のスクリーン・リーダーからPC-Talkerに乗り換えても、PC-Talkerの独自の機能を使わなくても、結構Windowsに元々付いている標準的な機能をうまく使いこなしていればそんなに苦労しなくて済む、というところがあるのかな、という気がしているんですが。とはいえ、僕は実はPC-Talkerは何回か使ってみようと思ったことがあるんですけれど、いろいろなキーを覚えるのが全然覚えられなくて諦めた、という……。
山賀:中根さん、よくいろんなところでそんなお話をされていますけれど、その辺の苦労する度合いはどっちも正直変わらないかな、という気がします。作法が違うからそう感じるだけであって、覚えなくちゃいけない量はさして変わらないかなと思います。
中根:そうですね。あとはNVDA、JAWS、ナレーターって結構コマンド体系が似ているんですよね、だからその間で行ったり来たりするのはそんなに苦にならない、というのはありますね。
辻:ちょっと脱線しますけど、昔音声ブラウザーで特殊なキー操作でWebを閲覧することを仕事にしていた時期があるんですけれど、やはり普通のWindowsのキー操作、例えば最近で言うとNVDAとかJAWSとかナレーターも使っている、見出しにジャンプするには「h」とか、そういうキーに慣れるまですごく時間がかかったな、という印象があって、やはり一度慣れたものから別のものにツールを移行していくというのはそれなりにハードルの高い作業なのかな、という気がしますね。
中根:NVDAが成功したのは、JAWSとちょっと似ているというのが結構大きかったのかな、という気がしますね、個人的には。
辻:やはり操作体系を、JAWSもそうだし当時はやっていたWindow-Eyesとかもそうだけど、結構他のスクリーン・リーダーを使ってもあまりユーザーが苦労しないように、というところには気を配っていて、NVDAもそれに追従したのかな、という印象がありました。
伊原:制作者の立場で質問なんですけど、MacOS VoiceOver 13.6%なんだよね、というのがあって。今日Webアプリ、Webサイト制作においてはMacを使いがちで、検証のときにとりあえずその場にあるのでMac VoiceOverを起動しがちなことがよくあるなと思っているんですけど、そこに対するこの不人気ぶり、というのがあって。これについてちょっと言及せざるを得ないのではないか、と思ったので質問です。
中根:このあとにWindowsとMacの分布みたいなのもあるんですけど、基本的にはMacのVoiceOverは日本語の扱い、特に入力時の扱いがよろしくない。どうよろしくないかというと漢字変換をする時に、変換候補を読みあげる時に「詳細読み」という機能があって、例えば「辻さんの辻」って言うと「辻斬りの辻」とか言うわけですよ。
辻:はい。辻斬りです。
中根:そういうふうに、変換候補の中に入っている漢字一文字一文字がどういう熟語に使われている文字なのか、という説明を追加して読み上げてくれる。そういう機能を詳細読みというんですけど、その詳細読みの機能がWindowsの日本語のスクリーン・リーダーだと普通に当然入っている機能で、それがどれだけちゃんと使えるか、それが使えないと文章が書けないので、それはすごく重要なんですね。
それに対してMacのVoiceOverは読み上げはともかくとしても、書いているときの詳細読みがなかなかうまくいかない。バージョンによってはうまくいくらしいがそれでも全然完璧とは程遠い、という話を聞いていて、実際に僕も試したバージョンでは全然だめだったんですね。なので、日本語を書かなくちゃいけない人にとって、MacのVoiceOverはあまり選択肢にならないのだと思っています。
山賀:同じことがやはりナレーターにも言えていて、それはやはりこの使っているユーザー数にあたってるかなと思います。なので、このナレーターを使っているユーザー数もこれはもう推測ですけど、多分メインで使っている人というのはほとんどいなくて、メインで使っているのは多分ロービジョンの方が補助的に使っているであろう、ということがいえると思います。
伊原:逆に言うと、日本語圏じゃなかったらまたそこは変わってくる?
中根:そうですね。ただ、MacのVoiceOverのWebの閲覧の機能は、Webに限らないですけど、ちょっと特殊なんですよね。NVDAのオブジェクト・ナビゲーション、という機能があるんですけど、それはNVDAの中で僕の印象では1番難解だと言われている機能で、実は使いかたをよく知らないという人が多い機能だと思うんですけれど、それと同じような仕組みを当たり前に使わせるのがMacのVoiceOverだと僕は思っていて。例えばなんて言えばいいかな……。
辻:テーブルとかも「テーブルがあるよ」って教えてくれるけれど、「そのテーブルの中を見たければそのテーブルを開かなくちゃいけない」じゃないけど、なんかそういうことですよね?
伊原:入らなくちゃいけないんですよね。
中根:そう、入らなくちゃいけないんですよ。テーブルの行、1行目を読みたかったら行の中に入らなくちゃいけない。その入る出るという操作がいちいち発生する、というのがだいぶ煩わしいと正直思います。
辻:僕も最初にMacのVoiceOverを使ったときに、ちょっと面倒だな、と思ったのはそこでしたね。iTunesで曲を視聴するときとかもやはりテーブルとインタラクトをしないといけないので、結構大変だった記憶があります。
小川:同じ「VoiceOver」と冠してはいても、iOSとはまったく作法が違うということなんですね。
中根:そうです。対象とするプラットホーム、OSが違うので、全く別物だと思わないとひどい目に遭う、という。ちなみにmacOSのVoiceOverはさっき言った詳細読みがほぼ壊滅的な感じなんですけど、iOSのVoiceOverはまあまあ使えるレベルでちゃんと読んでくれるという。「なんでMacも同じくらい頑張ってくれないのか」という不満を持っている日本人は結構いるんじゃないですかね。
伊原:非常によく分かりました。ありがとうございます。
中根:次が、ここはWindowsのスクリーン・リーダーについてバーッと書いてあって。あとはさっき言及しなかったのが、ZoomTextというのがあって、これはロービジョンの人が画面を拡大したりだとか見やすいように変更をするとか、そのための支援技術です。ただ最近はWindowsに標準搭載している拡大鏡だったりとか、配色変更の機能とかで十分事足りるって言っているロービジョンの人も、前に比べると随分増えたかなという印象があります。
パソコンで主に利用している支援技術
中根:「主に使う支援技術(単一選択)」ということで、これは「1番よく使っている支援技術は何?」「スクリーン・リーダーとかは何?」というのを聞いたやつです。で、スピーカーノートに何も書いていないから、多分僕は何も思わなかったと思うんですけど。
伊原:さっきの複数選択をシングル・アンサーになおしたらこうなるよね、という印象ですね、これは。
中根:だから「VoiceOverは少ないよね」「PC-Talkerは多いよね」とか。あと1つ言えるのはJAWSは思ったよりも少ないなというところで、やはりこれは価格が結構効いているかな、という印象ですね。
山賀:Windows 10になってから、ちゃんと使おうと思うと毎年更新をしないとひどい目に遭う、というところで、だいぶ人が流れたという感じを受けていますね。
中根:経済的に問題が無ければ僕も本当はJAWSを使いたいんですけどね。なぜNVDAではなくてJAWSを使うといいかというと、点字の出力の精度が高いとか、あとは搭載されている音声合成エンジンの品質がいいとか、あとはJAWSスクリプトという強力なマクロみたいなのがあって、それでかなりいろんなことができるとか。いろんなことって難しいですよね。難しいけどいろいろできる……。
山賀:仮に普通にアクセスしたときに読まなかったり操作できなかったりしても、スクリプトを書けば最悪なんとかなるかもしれない、というのがJAWSのすごく強力なところですね。
小川:JAWSだと何も読まないボタンとかにラベルを貼ることもできましたよね?
辻:カスタムラベルとか。
小川:スクリプトまで複雑なことをしなくても……。
辻:プレイスマーカーもそうですね。
中根:なんかちょっと気の利いた機能が多い。
辻:多い。Webを斜め読みするような機能もあるじゃないですか。これはかゆいところに手が届く機能だな、と思うのがいろいろあるんですけどね。
山賀:正直、多機能すぎて多分あれを抜群に使いこなすのは相当大変だな、という印象はあります。
伊原:質問です。NVDAはさっき複数回答だと55%ぐらいまでいって、結構健闘していたな、という感じがあるんですけど、単一選択のこの質問になると13.9%なので、主にな人はまだ1割ちょっとという感じで。僕は中根さんとか辻さんとかとしゃべっていたり仕事したりしているので、結構NVDAメインな人って増えてきているのかな、と思っていたが、さっきの感じで言うとNVDAはおさえとして使っているみたいな感じで、メインはNVDAではないという人がまだ多いのかな?という印象だったんですけど、そこはそういう理解であっているのかな、って。
中根:僕はそうなんだろうな、と思っています。
辻:やはりメインになりきれない1つの理由は、読み上げのときの音声の音質問題はかなり大きいかなと。
伊原:音質なんだ。
小川:あと初めてパソコンを使う人がいきなりやるとしたら、NVDAも結局JAWS並にショートカットとかが複雑だったり、さっき中根さんがおっしゃっていたオブジェクト・ナビゲーションとかが常に立ちはだかるのではないかなと。という点ではライトユーザーからヘビーユーザーまでとりあえず包括できるPC-Talkerのほうがまだ有利になっている。
中根:ライト・ユーザーは確実にPC-Talkerのほうが楽だろうな、という気はしますね。
辻:毎日やることが決まっている人は確実にPC-Talkerを使っていたほうが楽だとは思うんですよ。専用のソフトで決まったタスクを実行するのであれば、それは間違いないと僕も思う。
中根:やれ新しいソフトだ、やれ新しいサービスだ、みたいなことを、暇でもないのに試したくなる僕とか辻さんみたいな人たちには向いていない。
辻:Twitterを見るとすぐに新しそうなサービスを開いちゃうんですよね。
小川:やはりPC-Talkerのほうがサポートが受けやすい、というのもあるのではないかな、と思いますね。
パソコンで主に利用している支援技術(年齢別)
中根:次は「主に使う支援技術の年齢別」のやつですけど、これはスピーカーノートに書いてあるな、NVDAは若い人のほうが利用率が高いというのが僕の感想として。
PC-Talkerは年齢が高いほど利用されている気がするというか実際にそうなんですけど。「主に使うものは最初に習得したものに影響されるのかしら?」というのが僕の分析にもなっていない感想で、多分さっき山賀さんだったか、小川さんだったかおっしゃっていましたけど、やはり最初に教えられるのがPC-Talkerという方が多いと思うんですよね。そうすると、そこからPC-Talkerでできることをやっているあいだは別にPC-Talkerでいいや、というのは当然そうなるだろうなと思うし、時代がさかのぼればさかのぼるほど選択肢が少なかったので、当然年齢が上の方のほうがPC-Talkerの利用率が高い、ということはあるんだろうな。
NVDAを若い人が使っているのは、多分PC-Talkerでなんともならないサイトを見たりとか、あとJAWSはお金が無いから買えないとか、そういうことなのかな、という気がしているんですけど、その辺はどうですか?
山賀:そういうことだと思います。
辻:若い人のほうが冒険している感じなのかな?
中根:「ただだし、別に使えなくても困らない」ぐらいの感覚は若い時ってありますもん。命とか取られるでもなしに、みたいな。
辻:でも、食いたいものがちゃんと注文できなかったら命なくなるかもしれない。
小川:なんだかんだ言って、パソコンを買う時点で結構お金かかりますからね。自分自身で使おうとすると。
山賀:でも逆に今辻さんが言った「食いたいものが食えないと命が」というところでいくと、Web周りはNVDAのほうが強いので、そういうところで若い人たちがNVDAを選んでいるということも無きにしもあらずかもしれない。
中根:だから新しい、巷で話題のサービスを使ってみる。例えばUber Eatsを使ってみようとか、そういうことがあったときにちょっとやってみて、やはりNVDAのほうがうまくいくかな、というふうに切り替えながら使っている人が多そうな感じがしますよね。
山賀:もうちょっと真面目な言いかたをすると、多分モダンUIにPC-Talkerは弱いというか適応するのが遅いんですよね。NVDAはモダンUIに結構早い段階で対応できるので、そういう新しいページとかを訪れたときにまあまあ困らずになんとかできるのが多分強みだと思います。
伊原:サイトとかアプリを作っている側としても、フルに作ったものが使えるようになっているのかの検証にはやはりNVDAを使うので。アプリケーションだとWAI-ARIAと呼ばれる語彙というか、指定をしないとそもそもメニューが開いている、閉じているとかを伝えられないみたいなのもあったりするので、そういう高度なというかモダンなやつを作るのと、それがちゃんと伝わるようにするというのだとNVDA、という選択肢になってくるのかな、という感じはしますね。
中根:僕も開発側という立場もあるんですけど、NVDAで使えないんだったらPC-Talkerでも使えないだろう、という感じがだいぶあって、最低限NVDAで使えるというのはまずやらなくちゃいけないだろうなと思っています。そうすれば仮にPC-Talkerとかで使えなくても、それこそNVDAはただなんだからとりあえず使ってみる、ということはできるわけで。それがPC-Talkerとかじゃないと使えないとなってしまうと「NVDAを使っている人はPC-Talker買うの?」みたいな話になっちゃったりするから、そういうことを考えてもまずはNVDAをというところは必要だろうな、ということを考えながら開発には関わっていますね。
視聴者からの質問
伊原:ちょっとSlidoから質問を拾ってもいいですか?「モダンUIというのはどういうものを指しますか?」という質問が1つ来ていますが。
中根:Webでいうと、どれだけ技術的な話をしていいのかよく分からないので難しいんですけれど、例えば身近なところで言うと、TwitterとかFacebookとかなんかはモダンUIに近いWebサイトですよね。ああいう、単純に情報が表示されているだけではなくて、何かを押すとメニューが現れるだとか何かを押すと画面が変わるだとか、リンクを押せばみんな変わるんですけどそうではなくて。
山賀:部分的に変化したりだとか。
中根:そう。部分的に変化したり動的に変化したり。
山賀:時間によって変化したりとか、という動きをするものですかね?
中根:今僕が使っているGoogleスライドとかもある意味、というか完全にモダンUIですね、これ。
伊原:はい、ありがとうございます。たくさん質問をいただいているんですけど、ちょっと先に進みましょうか。
WindowsとmacOSの利用状況
中根:次に行きます。「WindowsとMacOSの利用状況の分布」というの。
これは使っている支援技術から推測したんですけれども、予想通りmacOSは少ないねということが手元のメモには書いてあって、さっき言いましたけど、漢字の詳細読みが不十分なのが主な原因だろうと。
で、WebAIMでは主に使うOSとしてはMacOSを上げている人は少ないけれど、よく使うデスクトップのスクリーン・リーダーとしてVoiceOverを挙げている人は41.3%いると。やはり日本よりも多いんですよね。で、これは「漢字詳細読みの問題が無いからだ」と単純に言って多分大丈夫なのではないかな、と僕は思っています。
辻:あと、あるとすればさっき山賀さんがおっしゃっていたような音声の音質が、英語版のMacはAlexが確かデフォルトで。
中根:音質はいいです。
辻:僕はあまり好きではなくて、息継ぎみたいな音がするのが苦手なんだけれど。なんかAlex息継ぎの音が聞こえるから気持ち悪い。
中根:分からない人がいらっしゃると思うのでちょっと説明すると、すごく自然な英語をしゃべる合成音声エンジンなんですけど。自然なのはいいんですけど、いちいちピリオドのあととかで息継ぎの音がするんですよ、本当に。じっくり聞いていると気持ち悪いんですよ。
辻:でも「音質がきれい」というのは1つあるのかもしれないと思いました。
中根:速度もかなり早いんですよね、Alexって。で、早口でバーッとしゃべって息継ぎをされるから、なんか聞いているうちに苦しくなってくるんですよね。だからコンピューターの読み上げに関してはあまり人に似せちゃだめだなと思います。
というのがMacとWindowsの分布ですね。
Windows支援技術の併用状況
中根:で、次が、「Windows支援技術の併用状況」ということで、Windowsを利用していることが推測される人が回答者の中で317人いたんですけれど、そのうちの310人が1つ以上のスクリーン・リーダーを選択している。人によっては4つ最大選択していたんですけれど、そういう人がいましたよと。
それからZoomTextとかWindowsの拡大鏡とかそういったものを併用している人もいました。その中でスクリーン・リーダーを使っていない人が7名。で、スクリーン・リーダーと併用している人というのが45名ですね。
だからロービジョンの人が少なくともこの45名と7名、52人はいる、ということなんですけど、どうですかね?印象としては実態よりもロービジョンの人、少なくないですか?
辻:そうですよね。もっといらっしゃるのではないかな、という気はする。
山賀:これはそのアンケートの答えてくれた分母の、協力してくれた団体とかに、弱視というよりはほぼスクリーン・リーダー利用な人が多かったんだろうな、という感じはしますかね。
中根:というのと、多分やはりそういう団体に関わっていないロービジョンの人が結構多いんだろうなというところだったりとか、あるいはロービジョンなんだけれども、ちょっと拡大する程度でいいと思っている人、あるいはちょっと配色変更するだけでいいと思っている人たちというのが結構いるような気がしていて、そういう人たちって多分積極的にスクリーン・リーダーの情報収集とかはしていないんだろうなと思うんですね。そうすると、僕らがこういう調査を実施してもあまりリーチできないということはあるのかな、という気がしています。
実際に厚労省の調査とかを見ると、ロービジョンの人のほうが圧倒的に多いはずなんですよね。なので、ちょっとこれで見て全盲の人が多いんだな、という印象をもってしまうと、パソコンユーザーという意味で考えるとそうなのかもしれないけれど、社会全体で見ると絶対に違うし、パソコンユーザーという意味で見ても支援技術を使っていないとか、依存度が低いだけで、ロービジョンの人は結構いっぱいいるはずだということですね。
小川:思ったのは、ロービジョンなんですけど、パソコンを使うときには目は大事にするとか、目の疲労との兼ね合いで音声のほうがいいから、ロービジョンだけどロービジョン支援ツールではなくスクリーン・リーダーを使う、という人もこの中にはいるのではないかなと思うんですよね。僕も見えていた頃は実際そうでして、漢字とかが音声だとどうしても分からないときとかには画面を拡大したりだとかしていましたけど、特に視野とか視力が弱いロービジョンといっても、いろんな見えかたとかがあるので十人十色なんですよね。なので見えかたによっては頑張って見ちゃうよりかは、もう音声を聞いちゃったほうが圧倒的に楽ってことと次第によってはロービジョンだけど点字を使いまくっている、という人も中にはいますので。
山賀:ただ、全体としては少ないかな、という気がして、むしろそういう考えを持っている人はスマートフォンとかタブレットを使っている人たちでロービジョンの人たちのほうが多分そういう考えの人が多いかなと。パソコンの場合は多分、前々からの印象でそういう支援技術は高いから使わないとか、そもそもパソコンだったら画面がまあまあ大きいから頑張れば見えるし使わないとか、あとはWindows自体が備えているものがあるということを知らない人というのが一定数いるのではないかな、というのが僕の見方ですね。
Windowsで利用しているスクリーン・リーダーの数
中根:「Windowsで利用しているスクリーン・リーダーの数」という、これは1~4個まで聞いたという話です。これは僕がメモで残しているのは、1種類の人は34.19%と、意外と少ないということですね。4種類使っている、という人は11名いる。これは結構驚きでした。
なぜ併用する人が多いのか、という話は今までもちょっと出てきましたけど、やはり基本的には普段主に使っているスクリーン・リーダーで試してみて、うまくいかない場合に別のスクリーン・リーダーを試してみる、そういう感じですよね。
伊原:ちょうどSlidoで、「小川さんが自己紹介で『PC-Talkerを使っていて、手に負えなくなるとNVDA、さらに手に負えなくなるとナレーター』とおっしゃっていたのが興味深かったです。複数のスクリーン・リーダーの間でこのような優劣の順位というのは視覚障害当事者のみなさんの間で割と共通だったりするんでしょうか?」というご質問が。
中根:共通ではないでしょうね、多分。やはり慣れているものが第1位で。その次に来るものは安いもの。ナレーターが1番低機能だと思われているふしがある。
山賀:最後の最後にチョイスするのがナレーター、という点は共通しているかもしれないですね。
伊原:でもPC-Talker、NVDA、ナレーターはよく使っていて安くて最後の一手、という点では、例えば小川さんの順番というのは割と。
小川:いや、これは僕がPC-Talkerにこだわっている理由が、さっき言っていた音声エンジンが僕にとっては聞きやすいから、というのは1番大きいんですよ。NVDAがどうこうとかというんじゃなくて。しかもPC-Talkerを入れたら最初出てくるVoiceTextではなくて、昔からあるProTALKERという、どちらかというと機械的な音声というんでしょうかね?肉声に近い音声じゃない。これで長年使っていたので耳がこっちになじんでいるんですよね。で、NVDAもなんとか使おうとして機能的には大満足なんですけれども、やはり音というのは非常に重要なことで、普段PC-TalkerでもできるからじゃあPC-Talkerでいいよね、というわりとしょうもない理由なんですよね。
中根:受け取る情報量が多ければ多いほどそこはストレスになるので、全然しょうもなくないと思います。
Windowsで1種類のスクリーン・リーダーのみを利用している人の利用製品
中根:「Windows単一のスクリーン・リーダーを選んでいる人」ということで、やはりこれは基本的にはPC-Talkerの人が1番多いんですよね。JAWSはゼロ、というのが僕は結構印象的でしたね。
小川:これもちょっと逆にびっくりしましたね。
山賀:でも見ているとやはりそうなるかな、と思いますよ。JAWSだけ入れれば安心とは思えない。
中根:思えないもんね。
山賀:途中で止まりますし。
中根:JAWSは基本的に重いんですよね。
山賀:多機能ゆえにしょうがない、と言ってしまえばそうですけれど。
利用している人が多いWindows用のスクリーン・リーダーの組み合わせ
中根:次に行きます。Windowsで「利用が多い組み合わせ」ということで。
これはスクリーン・リーダーの組み合わせの話で、「PC-Talkerを単一で使っている人も多いが、何かと併用している人もすごく多い」というざっくりしたメモが書いてあります。
結局全体的に見て、何かと組み合わせて使っている人がどのスクリーン・リーダーも多くて。PC-Talkerが1番単一で使っている人が多いけれども、そのPC-Talkerですら何かと組み合わせて使っている人のほうが多いんですよね。その理由は今までさんざん話した通りです。
視聴者からの質問
伊原:「WebAIMの調査と違って日本だとJAWSユーザーの比率がガクッと減っているのですが、高機能だけど日本語で使いづらいのか、コストが高いのか」。
中根:コストでしょうね。
伊原:コスト。高いからってことですかね?
中根:そうですね。アメリカなんかのほうがやはり公的支援とか、州によるんですけど充実していたりとかもするしとか、あと今って価格体系もちょっと違うんじゃないっけ?
辻:サブスクがあったりするんですよね。
中根:なんかそれっぽいやつありますよね。だからその辺の差もあるのかなという気はしますね。
伊原:日本だとそういう補助が利いたりとかそういうことはあまりJAWSに関してはない、という感じなんですか?
中根:JAWS、ある意味補助は利くんです。使える補助制度はあるんですけど、対応年数が多分4年とか。
山賀:市町村によってまちまちですね。かつ、さっき言ったようにWindows 10になってからは、ちゃんと毎年更新しないと多分満足なパフォーマンスが得られないとなると、なお厳しい。
中根:毎年補助をもらえるということはないので。
小川:昔はそれこそJAWSって個人が趣味で使うようなものではなくて就労で使うことが多かったんですけれども。就労で使うケースも、完全に置き換わっているわけではないんですけれども、JAWSまで出さなくてもそれこそモダンUIだったらNVDAでなんとかなるよね、という時代になりつつあるので、そっちでシェアが落ちてきているというのもあるのではないかな、と思います。
伊原:JAWS関連で別の方。「日本と海外でJAWSの比率が違うのは、米国を中心とした世界ではJAWSがPC-Talkerのように昔からあって、まず選択肢になるスクリーン・リーダーだからだと思われます」。
中根:それはありますね。
伊原:そういうことなんですね。
中根:それは結構重要なポイントですね。
伊原:ではデファクトスタンダード的な存在であるということなんですね。
パソコンでの点字ディスプレイ利用状況
中根:次が「PCで点字ディスプレイを使っている人の割合」ですね。
点字ディスプレイの利用者は30%くらいという感じです。その一方で、平成18年度の身体障害児・者実態調査というのが厚労省であって、これが1番点字の使用率を調べている最新のデータ、恐ろしいことに15年前なんですけれども、点字使用率が12.7%ということで、それよりも多いな、というところなんですけど。
中根:多分これはさっきのロービジョンの人が少ないというところに答えがあって、我々の調査の回答者の母集団というのにロービジョンの人が少ない分だけ、視覚障害者の中での点字使用率というのが上がって見えているのかな、という気がしています。この厚生労働省の調査というのは基本的に、当然ですけれどロービジョンの人も含めて視覚障害者の母集団としていて、その中で点字を使える、読める、書ける、という人の割合なのでやはり少なくなるんだろうな、というようなことを思っています。
パソコンで利用しているWebブラウザー
中根:PCとWebブラウザーということで、NetReaderが多いよねということで、これは予想通りで、IEが実はまだまだ多いとか、Firefoxは思っていたよりも少ない、Chromeが思っていたよりも多いということなんですけれども。
まずNetReaderについて、普段視覚障害者系の支援技術の話を知らない方だと全然「何者?」って感じだと思うんですけれども、PC-Talkerと一緒に動作するブラウザーなんですけど、実態は昔はIE、今はChromeの上にUIをかぶせているようなそういうアプリケーションですね。なので実際にWebページをとってきて解釈するのは古いバージョンだとInternet Explorerで、今のバージョンだとChromeなんですけども、それをPC-Talkerで使いやすいようなキー操作だったりとか読み上げだったりとかを実現してくれる、というそういうツールです。
これはやはり、さっきの話じゃないんですけど、モダンUIじゃなければやはり良くできていると思うんですよね。似たようなものに昔ホームページ・リーダーというのがあって、こっちのほうが多分有名かもしれないですけれども。音声でWebブラウズをするために特化したツールという感じでこれがやはり1番よく使われているという感じです。PC-Talkerのユーザーが特にそれを使っているのは当然多いのですが、場合によっていろいろ組み合わせて使っているという状況も見えているということですね。
パソコンで利用しているメーラー
中根:で、メーラーもちょっと聞いてみました。「メーラーはなんで聞いたの?」という質問も実はされたんですけど、これは単純に1番使っているツールといえばメールとWebかな、ということで聞いてみました。
さっきもちょっと小川さんから説明がありましたけれど、MyMailというPC-Talkerと一緒に使うことが前提になって作られているアプリがあって、これとPC-Talkerとを一緒に使っている人が多いですね。
あとはブラウザーデ読む人も意外と多かった。MMメールとかVoicePopperという懐かしい名前をあげている方もいらっしゃいましたけども全体から見ると少なくて、OutlookとかThunderbirdがそこそこいるかな、というところでしたね。
主に使用している支援技術ごとのWebブラウザーの利用状況
中根:で、「主に使用している支援技術ごとのWebブラウザーの利用状況」ですが、これはグラフを見ても何が何やら、という感じであれなんだと思うんですけど、やはりPC-TalkerとNetReaderの組み合わせの人が1番多かったですよ、というところです。あとはPC-TalkerではIEとChromeもそこそこ使われている。IEを使っている人はほぼPC-Talkerを使っている人だけ、という。
山賀:それは多分さっき言った、くっついてくるスタートメニューのランチャーの中の1番上にInternet Explorerがいるので、NetReaderが無い人が多分それを起動しているだけの理由だと思われます。
小川:いまだにEdgeじゃなかったんだ、そこ。
山賀:ただ、今Internet Explorerを立ち上げるとそこからEdgeに転送されるので、気づかないでEdgeを使っている人が多分一定数いるはずです。
中根:NVDAとJAWSはChromeが多いと。海外のWebAIMの調査ではJAWS+Chromeが32.5%、NVDA+Chromeが16.0%でChromeが1番人気がある、という感じみたいです。
伊原:きれいに分かれていますね。PC-TalkerないしナレーターだったらNetReaderだし、JAWSかNVDAだったらChrome、という感じになっていますね。
中根:ナレーターの人がNetReaderとかMyMailを使うのがいまいちちょっとピンとこないところは。
辻:そうですね、JAWSの人もいますよね。
小川:NVDAでもたしかいたような気がします。謎なんですよね、これが。
中根:謎なんですよ。これは基本的にやはりPC-Talkerを使っている人にとって便利なツール群なので、なんでそうなっているのかちょっと疑いの目をもって僕は見ています。チェックし間違えたかな、みたいな。
小川:できますけどね、一応NVDAでNetReader。
山賀:動くのと読むのはまた別の話ですからね。
中根:そうですよね。
視聴者からの質問
山賀:Twitterで「NetReaderを使う利点はなんでしょうか?」というのがあるんですけど。
中根:どうですか?
山賀:ページの先頭と末尾みたいなことが明確に分かる、というのは1つあると思うんですよね。普通にChromeとかEdgeで見ていると、結局本編部分とアドレスバーとかその間に挟まっている他のツールバーの部分とかにカーソルが入っていってしまうんですけど、NetReaderで見ていると完全に本文部分だけを読んでいけるので、そういった迷子をおこすことが少ない、ということが1つあるかな、と。
中根:PC-Talkerとブラウザーの場合はそうだけど、多分NVDA、JAWSとかとブラウザーだとそういう感じには多分ならないので、そこはちょっと違いがあるかもしれないですね。
山賀:でもタブキーでガーッて見ていってページの末尾までいってタブキー押すと、アドレスバーとかに入ってしまう。
中根:タブはそうですよね。
山賀:あと矢印の場合は無いんですけど、わりかしタブで見る人たちが多いので、というのがありますね。あとはNetReaderの強力な機能として、どこにいてもすぐ検索ができるという。もちろん他のブラウザーでもアドレスバーに行って入力すればできるわけですけど、その検索結果も必要な結果だけ、広告とか前提条件とかの提案とかを全部省いて本当に結果だけが見られる、というのが多分NetReaderが1番の強みですよね。
主に使用している支援技術ごとのメーラーの利用状況
中根:「主に使う支援技術とメーラー」というやつもあげてあって、PC-TalkerでMyMailが多いのは予想通りですね。PC-Talkerは実はそれ以外の人も結構いるという。Outlookとかも結構いますね。
辻:そうですね。
伊原:ここもPC-TalkerかナレーターだったらMyMail、という感じになっている?
中根:ナレーターとMyMailはちょっとよく分からないですけど、まあそうですね。PC-Talkerはやはり基本的にMyMailですね。
小川:PC-TalkerとMyMailやOutlookの組み合わせだと、メール本文を連続で全文読みさせたり、結構自由自在に読ませることができるというのが大きいですね。ThunderbirdとかWindowsの標準のメールだと、全文読みはできるんですけど途中で止めるとそこだけ読ませるとか、という小回りがきかない。そこはやはりNVDAのほうが強いんですよね、小回りという意味では。だからこそのこういう分布じゃないかな、と思います。
山賀:本当はPC-TalkerをやめてNVDAにしたいんだけど、メールがMyMailのために離れられないと言っている人も。
小川:僕の職場のパソコンがまさにそれですね。
PC-Talkerのみを使っている人に関する分析
中根:PC-Talkerのみを使っている人に関する分析を聞かせてくれ、というリクエストがありまして、ちょっと今日はザっとやってみました。これは調査表には載っていないです。
PC-Talker以外のスクリーン・リーダーを使っていない人、つまりPC-Talkerだけしか使っていない人は98人います。そのうち14人がZoomTextとかWindowsの表示設定、拡大鏡とかそういうのを併用しています。で、macOS VoiceOverもあわせて使っている人が8人います。で、PC-Talkerだけを使っていてスマートフォンを使っていない人は22人。
なので全体で見るよりもちょっとどうなんだろう?多いのかな?でもあまり傾向として特殊なものは無いかな、という印象もちょっとありますね。
こちらはグラフとかが無いのであまり視覚的には分からないし、僕も言っていて数値の比較をちゃんとできていないので、言っているだけになっているので申し訳ないんですけど、そういうことが分かりました。
あとはPC-Talkerだけを使っている人のブラウザーの利用に関しては、当然ですけれどNetReaderはさっきの98のうちの63、IEが16、Chromeが6、Edgeが5、Firefoxが2。これは予想通りといえば予想通りで、思ったよりもNetReader以外が多いなという気はしましたけどね。
PC-Talkerだけを使っている人のメーラーの利用、これもMyMailが67、Outlookが14、ブラウザーが6。ブラウザーが6、というのが思ったより多いなと思いました。
辻:そうですね。
山賀:Gmailをメールソフトで読めるということを知らないでそのままWebで読んでいる、という人が多分、少数いると思います。
中根:ありそうですね。Yahoo! メールとかもなんかそういう。
スマートフォンで利用している支援技術
中根:スマホで使っている支援技術」、複数選択。
伊原:VoiceOverすごいな。
中根:VoiceOverが92.79%で圧倒的というやつですね、これは。さっきも言いましたけど、これもちょっと簡単に説明しておいたほうがいいですね。
VoiceOverというのはさっきMacのときに出てきてその時にも言いましたけど、iOS、iPhoneで使える標準搭載のスクリーン・リーダーなんですけど、MacのVoiceOverとは全然別ものです。
TalkBackというのはGoogleが作っているAndroid向けのスクリーン・リーダーで、これは標準搭載されているケースが多いですけど、通信キャリアとか端末メーカーによってはプレインストールされていないケースというのが時々、多分まだあるんじゃない?あと、日本語の音声合成エンジンがインストールされていない状態で出荷されている端末というのが結構多いので、初めて電源を入れてTalkBackを起動するところまでは自分でできるんですけど、表示が日本語になっていると日本向けだからしゃべってくれないということが起こったり、というのはよくありますね。
伊原:ちょっとここで質問をしたいんですけど、iOSVoiceOverが多いのはiOSの人が多い、というのも分かるんですけど、AndroidのTalkBackってAndroidユーザーが少ないからというのもあると思うんですけど、やはりあんまり使わない、使いにくいとかってあるんですか?というのは、検証をしていて、結構TalkBackの操作が難しいな、と思うことが多くて、結構ピーキーというか、しっかりスワイプしてあげないと全然、いわゆる要素をタップしたこととみなされて、別のところにカーソルが移動してしまうことばかり起きて「ウッ」ってなる経験をしていて、そういうところもTalkBackをあまり使いたくないところに関わったりするのかなってちょっと思ったというのもあって。
山賀:僕の印象では「TalkBackが」というよりは「端末が」というほうがという気がします。
中根:人数がVoiceOver、iOSのほうが多いのは、タッチUIに対応したスクリーン・リーダーとしてVoiceOverのほうが2年か3年早くTalkBackよりも市場に投入された、というのが多分1番でかくて。これ先行者利益なんですよね。
で、VoiceOverでも、僕とか辻さんとかそうでしたけど「本当に使えるんかいな、こんなもの」とか言いながら面白半分で買っては「意外と使えるじゃん」ということを言っている人たちが最初のうちに使っていて、それを見て何人かにだんだん広まっていって、「意外と使えるよね」といったところでTalkBackの最初のバージョンぐらいが出てきて、使ってみたら同じように使えるのかと思ったらちょっと使い勝手が違うぞ、という感じになって、人がそこまでより付かなかった、ということなのかな。というのはきっかけとしてはあるのかな、と思いますけどね。
辻:最初のTalkBackって日本語の音声エンジンが入ってなかったとかありませんでしたっけ?今だったらGoogleの音声エンジンが入っているけど。最初はDTalkerを入れないとしゃべらなくって、最初の使い始めがちょっと大変だったというのもあるのかもしれないって。
小川:あとはiOSというかVoiceOverのほうがさっきの「『TalkBack自体が』というよりは『端末が』」というのに通じるんですけど、iOSを搭載しているデバイス、今市場に出回っているのは絶対にVoiceOverが起動できて、ホームボタンがあるかないかは別として絶対に同じ操作で安定して操作ができるということが大きくて。
自分もTalkBack使ってるんですけど、「これからスマホを買おうと思うんだけど」と言われたときには多分十中八九iPhoneのほうを口コミで薦めていくことが多いと思うので。そういうどんなケースでも基本的に安定して使えるという安心感というのもあるのかな、と思います。
中根:あとは聞ける人が多い、というね。Androidの場合は端末が違っちゃうと使い勝手が違っちゃうみたいなことがあって。最初に使えるようになるまでの手順が違っちゃうみたいなことがやはり起こるのでそこがちょっと辛いかな、というのはありますよね。
山賀:あとはメーカー独自のユーザー補助的なものが入っていて、それとバッティングしてうまくいかないとかも。
中根:あと、ホーム画面がメーカー独自のやつがあるとTalkBackが全然しゃべらないとか。ではAndroidが悪いことばかりか、というとそんなこともなくて、「点字ディスプレイを繋いで使おう」という話になってくると、点字ディスプレイにもよりますけど、日本語でもちゃんと使えたりとかいろいろあったり。キーボードを繋いで使うときにはAndroidのほうがいろいろキーボードからできることが多いとかということはありますよね。
小川:日本語の読み上げの精度なんかもAndroidのTalkBackのほうがこれもエンジンにもよるんでしょうけれども。体感的にはVoiceOverよりもそっちのほうが高いかな、とは今も思います。
中根:それこそ音声の質とかいいし、あとTalkBack、Androidのほうが音声合成エンジンをサード・パーティーのものを選んだりとかもできるというのが結構ポイントで、iOSのほうはAppleが提供するものしか使えない、というところは違いとして大きいですよね。
スマートフォンで主に利用している支援技術
中根:「主に使う支援技術(スマホで単一選択)」というやつで、これもVoiceOverが圧倒的ってやつなんですかね。
伊原:87.9%がIOS、VoiceOverですね。
山賀:これ、さっきパソコンの時にも触れましたけど、多分ロービジョンの方たちでもiPhoneなりタブレットになるとVoiceOverを使う、という人が結構増えている気がするんです。備え付けであるからコストがかからないし。そもそも画面が小さくなると頑張っても見づらいから、iPhoneはVoiceOverで読ませながら使おう、というふうに切り替えている人が結構いる印象ですね。
iOSとAndroidの利用状況
中根:「iOSとAndroidの利用状況」ということで、これは「両方使っている」という人が思ったよりもいるなとは思うんですけど。
伊原:18.4%。Androidのみは2%、少ない。
中根:そうですね。
伊原:世間のiOS、Android比率から考えるとiOSのほうがだいぶ強い印象があるかな。日本ではiOSのほうが多いとは言われているが、8割弱までiOSというのはちょっと多いんだな、とやはり思いますね。
iOSとAndroidの利用状況(年齢別)
中根:次は多分年齢別かな?で、ちょっと若い人たちのほうがAndroidが多いといえば多いのかな。
伊原:若くなるにつれAndroid率が上がる、という感じになっていますね、そうとも言い切れないか。でも50代以上だと、Androidはかなり減ってくるという感じですね。
中根:若い人の場合は「Androidの端末が安い」というのがもしかしたらあるのかもしれないですね。
ちなみに僕もそうですけど、ここにいる人たちはみんなAndroidとiOSを併用している人かな、と思うんですけど、山賀さんはAndroid中心で、他3人は多分iOSのほうが多い、という感じなのかなと思うんですけど、使い分けってみんなどんな感じですか?
辻:僕はほとんどiPhoneで作業していまして、ときどき「Androidでもこのアプリが動くのかな?」とかそういう検証したいときとかにAndroidのデバイスを使ったりするくらいのビギナーです。
小川:僕も大体同じような感じですね。メインはiPhoneで、気分転換にAndroidを使ってみたり。「このアプリ使えるのかな?」とか、というときにやってみたりとかですね。
中根:逆に山賀さんはAndroidが中心で、iOSは開発だけって感じ、って確かさっき言っていましたよね。
山賀:開発とClubhouseをするときだけですね。
中根:そもそもなんでAndroid中心になったんですか?
山賀:僕がスマートフォンを持とうと思ったときにもう周りはほとんどiPhoneだったので、なんかつまんないと思ってAndroid、ぐらいな理由しかない。
中根:いいなあ。それはすごくいい理由です。
山賀:なんかつまらないと思って持ち始めてTwitterとかにブツブツ書いていたら、MLを作ってくださいみたいなことになり、Androidのメーリング・リストを作り……みたいな感じで、ずっとAndroidを使っている感じですね。
中根:僕は気まぐれなんですよね、結構。iPhoneで使い始めちゃったものが多いからそっちで使うものが多いんですけど、Androidのほうが読み上げとかはやはり分かりやすい。というか間違えない感じがあるから、そっちのほうが楽なときもあるんですけど。手元に、手近にあるやつを使う、という感じが多いといえば多いかな。でもiPhoneのほうがちょっと多いかな、というくらい。
伊原:iOSでもAndroidでも同じアプリ出している場合ってあるじゃないですか。どっちかでダメだったらもう片方で試す、みたいなことはするんですか?
中根:しますね。
伊原:そうなんですね、なるほど。どっちかだったら大丈夫なケース、というのもままある、という感じなんですかね?
中根:ときどきあるような気がする。
小川:たまにありますね。
中根:Androidのほうがシンプルでうまく動く、というケースがあるような印象がありますね。ちゃんと考えて作ってあるのはiOSのアプリのほうが多いような印象があります。
山賀:でも例えば、FacebookのMessengerで送られてきたURLを開こう、みたいなことをしたときはAndroidのMessengerのほうが素直に開きますね。
中根:そうかもしれない。
山賀:そういう細かいところの違いで、「なんかやはりAppleのほうが縛りがきついから、できないことがあるんだな」とか。
中根:そういうのはありますね。
辻:こういう時間だからお聞きしますけれど、イヤーコンの違いによってスマホの好みってあるのかな、と僕は思っていて。アイコンに対してイヤーコンという呼び方をするんですけど、昔のAndroidの端末ってスクリーン・リーダーを使うときにいろんな、例えば端っこにいったらポンッとかって音がするじゃないですか。アプリを開いたらガシャッみたいな音がするとか、すごく耳に付いて嫌だったんですよね。
山賀:確かに。最初やかましかったですね。
中根:最初はやかましかったね、確かにね。
辻:なんかガシャガシャドッシャーンみたいな音がして、そのイヤーコンの違いで僕はiPhoneを使い続けようと思った、みたいなのもちょっとあったんですけど、そういうのは理由になったりしますか?
山賀:という方はいますけど、それこそAndroidの場合はそこの部分もカスタマイズできちゃうので、自分で変えればいいじゃないという。
小川:iPhoneと同じ効果音にできちゃったりしますからね、アプリを入れれば。あと、イヤーコンがかぶったときのレスポンスのよさというのは、マシン・スペックが僕の持っている端末違うので単純比較ができないですけど、効果音と読み上げがかぶったときなんかにはiOSのほうがレスポンスが良く感じるんですよね。そのレスポンスの良さというところでやはりiOSを使い続けている、というのはあります。
中根:すごく文字量が多いテキストのかたまりがあったりしたときのAndroidの挙動は、ちょっと重いな、と思うことがありますね。
山賀:あとはずっとWebViewになると重い、というAndroidあるあるです。
中根:重いですね。
小川:ブラウジングとかはめちゃくちゃ重い。同じChromeを使ったとしても。
山賀:ブラウジング自体はだいぶ改善されているけど、アプリのなかでWebふうに出すときの挙動は、という感じ。
中根:例えば、利用規約みたいなやつをアプリの中で表示しているときとかは結構、「固まっちゃった」と思ってしばらく待っていると読み始めるみたいなのもありますね。
スマートフォンでの点字ディスプレイ利用状況
中根:次に行きます。「スマホでの点字ディスプレイ利用」ですけど、これはPCよりも少ないんですよ。
当然といえば当然なんですけどというのは多分、ここにいる当事者は当然だと思っていると思うんですけど、これは簡単になぜかというと、iOS、iPhoneと接続できる点字ディスプレイは機種は結構そこそこいろいろあるんですけれど、iPhoneに点字ディスプレイを接続したときに表示される日本語の点字が、へなちょこすぎてちょっと実用に堪えないと。ここはAppleがVoiceOverに搭載している点字を出力する機能を改善しない限り直りようがないので、Appleが頑張らない以上どうしようもないというところで、点字ディスプレイをそのためだけに買うのはどうなんだろう、という感じになっている。
一方でAndroidの場合はいくつか選択肢があって、点字ディスプレイを繋いでそれなりの日本語をちゃんと読める、という環境があるので、Androidで点字ディスプレイを使っている人のほうが多分多いはず、というところですね。
山賀:僕はそれを喜んで使っているユーザーです。
中根:僕もどっちかというとそうですね。
PCにしてもAndroidにしても点字ディスプレイ自体は、昔よりは安くなってきましたけどやはり高いものなので、それで普及率が低いというのもあるし、あとはその点字を読める、好んで読む人、というのがそんなに多くないというところももちろんありますね。
準備したスライドの内容はカバーしました。
クロージング
中根:ということで、いったんプログラムとしては以上でございます。
また定期的に調査をやりたいと思っていますので、今回の感想とかも含めて何かあればご一報いただければと思います。さっきご指摘があったようにリーチできていない人たちもいたりするので、そのあたり、すぐに解決できるような話ではなさそうな気もするんですけど、より良いかたちでやっていければなと思いますので、引き続きみなさん、サポートいただければと思います。
ということで、ありがとうございました。
謝辞
このレポートは、ブラインドライターズによるテキスト起こし原稿を基に作製しました。
テキスト起こしに当たっては、このイベントにカンパ枠で参加してくださった皆さんからお預かりした資金を活用させていただきました。ここに改めてお礼申し上げます。